
ワーグナー:『ニュルンベルクのマイスタージンガー』全曲
ハンス・ザックス:テオ・アダム
フェイト・ポーグナー:カール・リッダーブッシュ
クンツ・フォーゲルゲザンク:エーベルハルト・ビュヒナー
コンラート・ナハティガル:ホルスト・ルウノウ
シクストゥス・ベックメッサー・・・ジェレイント・エヴァンス
フリッツ・コートナー:ゾルタン・ケレメン
バルタザール・ツォルン:ハンス=ヨアヒム・ロッチュ
ウルリヒ・アイスリンガー:ペーター・ビンズツゥス
アウグスティン・モーザー:ホルスト・ヒースターマン
ヘルマン・オルテル:ヘルマン・クリスティアン・ポルスター
ハンス・シュヴァルツ:ハインツ・レーエ
ハンス・フォルツ:ジークフリート・フォーゲル
ヴァルター・フォン・シュトルツリング:ルネ・コロ
ダーフィト:ペーター・シュライアー
エーファ:ヘレン・ドナート
マグダレーナ:ルート・ヘッセ
夜警:クルト・モル
ドレスデン国立歌劇場合唱団
ライプツィヒ放送合唱団
シュターツカペレ・ドレスデン
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
録音時期:1970年
録音場所:ドレスデン、ルカ教会
録音方式:ステレオ(セッション)
これも素晴らしい「マイスタージンガー」です。カラヤンは従来の中世を思わせる素朴な演奏から、洗練された美しいメロディを持つこのオペラに明るさと洗練を持ち込みました。その美しいリリシズムにあふれた音楽はこのオペラの魅力を浮き立たせています。ま、それが固陋なワグネリアンにとっては耐えられないことかもしれません。もともとバルビローリが指揮する予定だったそうですが、代役のカラヤンが乗り込んで二ヶ月にわたって取り組んだセッション録音で(今では考えられません)そのカラヤンの意図が十分反映したものになっています。歌手も東西から最高のメンバーが集められました。テオ・アダムのザックスは素晴らしいのですがカラヤンのテンポに合わせているため先のバイロイトよりも少し窮屈そうです。リッダーブッシュのポーグナーは慣れてきたせいか堂々たる歌いぶりですね。テノール陣は最高です。ペーター・シュライアーのダヴィッドは当たり役だけに第一幕の長丁場も聴かせてくれます。ルネ・コローのヴァルターはカラヤンが「君のためならどんなオペラ・ハウスにでも推薦するよ」と言わしめたくらい明るい伸びやかな声で「バラ色に輝く朝ぼらけ・・・」で有名な「懸賞歌」を歌います。さすがにエーファのヘレン・ドナートは弱いですね。デルネッシュやヤノヴィッツを使えなかったのかしら。
問題はやはりベックメッサーを歌ったジェレイント・エヴァンスですイギリスでは有名なバリトンですがその嫌らしく下品な歌いぶりには辟易してしまいます。ワーグナーのト書きにもそのあたりの注意書きがあったはずですが、この歌手陣の中では異質ですね。EMIだからイギリスの歌手を使わねばならないことも分かりますが・・・。オーケストラもやはりベルリン・フィルを使って欲しかった。ドレスデンのオーケストラもいいですが、その合奏力の差は歴然です。合唱も当時、最強のベルリン・ドイツ・オペラを使って欲しかったと言えば欲張りでしょうか。カラヤンとドレスデンはこれが最初で最後の録音となりました。でも先のバイロイト盤とザックス、ポーグナー、夜警のバス・バリトン陣が同じって面白いですね。